Summer Wars感想

相当前評判がよかったので期待して観に行った。が、個人的には残念な感じ。
以下ネタバレを含むので注意。

確かにストーリーの骨格はよくできていると思う。ナツキ先輩とのドキドキな関係をはじめとする人間関係模様だとか、たくさんのキャラの性格をよくまとめ上げている点だとか。OZというセカンドライフ的な空間の描写の迫力もよかったと思う。

問題は、若干のほころびが何ヶ所にも渡って存在していること。ネタにマジレスと言われるのはアレなのだけども、そっちの方が気になってしまう。

例えば最初の方で言うと、夏休みの開始時点で数学オリンピックの日本代表は決定しない。春休みの合宿で決定されるものだ。
素因数分解アルゴリズムとしてShorのアルゴリズムの項を読んでいる描写があったが、正直あんなもの何の役にも立たない。と言うと怒られるかもしれないが、少なくとも現在役に立たせるための物理的な技術は存在していない。さらに、あの描写があるということは、相当桁数のRSA風の素因数分解系の暗号形態をとっているシステムなのだと思うけれど、そんなものを紙の上で解けるわけがない。絶対に、だ。まして暗算なんて。つか、世界一のセキュリティと言ってるくせに、量子耐性もないアルゴリズムで防ぐなよ。
20TFLOPSのスパコンを導入していたが、どうやって使っているのかすら分からない。スパコンがあればいいと思ったら大間違いだ。その上で使えるソフトを構築するのに、一日二日でできるなら苦労はいらない。まあ、あんまり主人公がハッカーっぽくなってしまうとイメージが崩れるってことはあるのだと思うけど。さらに、現段階ですらラック一台で理論性能5TFLOPS程度は達成可能なのだけれど、近未来程度を想定するなら性能悪いんじゃないのか。
等など。

で、後は「世の中の人たちが持っているシステムという物に対する漠然とした不安」が所々にちりばめられていると感じる。これはこの作品に限った話ではなくて、こういったハッカー物ではよくある描写なのだと思う。ただ、そういった漠然としたイメージに頼って作られている感は否めない。SFと割り切ればまだ何とかなるのだけれど、なまじ現実世界に投影しだすと頭が痛くなる。
(もっとも、こういう不安を世の中の人たちが持っているのは間違いないので、どういう形で払拭するかというのは、本業的にはとても重要な話なのだけれど。)

上記の問題を忘れてしまうほど没頭できたらよかったんだろうけど、最終的に心の中にはわだかまりがいっぱい生まれてしまった。コンピュータを使ったバトルと言っても、例えばエヴァ(テレビ版)拾参話のMAGIを乗っ取る話なんて言うのは、現実にはありえないとか考えずに楽しめたわけで、細かいことに気を取らせるというのはやはり作品の総括としてはイマイチだったのではないかと思う。
これは電脳戦争じゃなければもっと面白いはずなのに、とひどいことを言って締めようと思う。